『CA BASE AWARD 2021』で最優秀ベストリーダー賞を受賞した開発本部UI/UXチームに所属する長谷川 彰之介 (はせがわ あきのすけ)さんに、デザイナー組織の強化や理想のチームなどについてお話を伺いました。
Profile
長谷川 彰之介
2006年 大阪芸術大学デザイン学科卒後、CyberAgentインターネット広告事業部のデザイナーとしてアルバイト勤務し、その後2007年にCyberAgentへ入社。
5年間広告デザインに従事した後、UIUXデザイナーに転向。複数の新規サービスのUIを手掛ける。
2016年よりCyberZに出向し、現在「OPENREC.tv」リードデザイナーとして従事。
───普段の業務内容について教えてください。
ゲーム実況・動画配信サービスの「OPENREC.tv」でリードデザイナーをしています。
サービスに関わるUIデザインが主な仕事で、新機能のデザインや、日々の機能改善に取り組んでいます。
───長谷川さんは普段どのようなリーダーの役割を担われているのでしょうか?
OPENREC.tvでは他デザイナーと仕事をする機会も多く、自分が関わるプロジェクトでは主体的に引っ張っていく動きをしています。
最近リリースしたOPENREC.tvの新機能『ファンレター機能(サービス上でファンが配信者にデジタルファンレターを送ることができる)』では、3人のデザイナーで動きました。
僕自身は上流のユーザー体験設計から参加し、ユーザーが実際に触る細部のUIやファンレターの便箋ビジュアルは、2人のデザイナーを巻き込みました。機能全体の品質が引き上がると考えたからです。
状況を判断して、デザイナーをアサインすることもリーダーの役割として重要な動きになります。デザイナーが増える分アイデアが発散したり、プロダクトに一貫性がなくなったり、あるいは稼働自体が鈍くなるケースも起こりえます。アラートが起きないように、メンバーとメンバーをつないで、質と速度を担保していきます。そうすることで結果的に1人では成し得なかったことが可能になり、ファンレター機能は配信者とユーザーにもすごく喜んでもらえることができました。
───サイバーエージェントグループの2021年を代表するエンジニア、クリエイター、プロジェクト、プロダクトを発表する、技術者による技術者のための表彰イベント『CA BASE AWARD 2021』ではデザイナー組織の強化、ハイブリッド体制といった部分が注目されていましたが、現在はどういったことに取り組まれていますか?
デザイナー組織の強化においては、特に若手の育成に注力しています。その育成方法の鍵としているのが、Photoshopやillustratorを使うビジュアルデザインと、SketchやProtopieを使うUIデザインを、早い段階から両方経験してもらうハイブリット体制でした。
育成のベースには、スキルマップを取り入れています。ビジュアルデザインとUIデザイン、それぞれに必要なスキルを洗い出して、役割と責任をレベルごとに可視化したものがスキルマップです。このスキルマップを使って、それぞれのキャリアをどう進めていくべきかのバランスを、自分とメンバーの両方で確認していきます。ビジュアルデザインはアート・感性的なスキルが特徴で、UIデザインはロジック・分析的なスキルが特徴です。これらはデザインの基礎的な部分で一方だけでなく必ず両方を備えておかないといけません。ロジックがあるからこそ感性的なビジュアルがユーザーに刺さる。アート感覚があるからこそUIがさらに洗練される。デザインの土台が一方に偏らないようにできるのが、このハイブリット体制での育成メリットです。
さらに、ビジュアルデザイン・UIデザイン、それぞれ独自の価値も尖らせるよう意識しています。これは、興味がある分野から勝手に伸び始めます。フォントが好き、海外のアートが好き、フレームワークが好き、プレゼンが好きなど。
デザイナーとしての基礎力に加えて、この得意分野を圧倒的に伸ばしていく。この組み合わせにより、組織にとって必要なプロフェッショナルデザイナーを最短で育てることができます。
最近では、社長の山内より機会をもらいCyberZクリエイター全員のデザイン品質を引き上げるための施策「MAQ = Maximize All-creators Quality」を開始しました。MAQはクリエイター全員が技術評価者となって参加し、全員で批評しながら品質を上げていく施策です。
CyberZのメディアにはOPENREC.tvだけでなく、国内eスポーツを牽引するRAGE、グッズ・フィギュアを展開するeStream、いくつかの新規事業も抱えています。タレントが揃ってきており、この批評をベースにクリエイターを横串でもっと繋げていけないかと考え、走り始めました。UIUX、ビジュアル、番組、ブランド、グッズ、フィギュアなど、クリエイターの手掛ける領域は様々ですが、MAQでは領域を超えて互いに評価し合うという仕組みの実現に取り組みました。
評価基準は「目的」に対して「それは効果的か?」に集中して批評を行う手法で、PixarやFacebookでも取り入れられているデザイン批評の概念をベースとしています。さっそく第一回が行われ手応えを感じており、引き続きクリエイターの理解を得ながらも数をこなしていき、仕組みを完成させていこうと考えています。
───CA BASE AWARDでの最優秀ベストリーダー賞受賞の要因はどういったところだと考えられていますか?
目標設定の取り組みが功を奏して、サービスの改善プロジェクトを大きく進捗させられたことが受賞要因だと考えています。
2022年前半期から、サイバーエージェントの横軸組織CyberAgent Creative Center(以下CCC)とCyberZで、OPENREC.tvサービスの品質改善に取り組み始めました。
CCCの目的は、サイバーエージェントグループの全サービスを世界品質まで高めることです。その目標に近づくためにも、デザイナーチームで一致団結してOKR※を徹底利用しました。
OKRは、目標が高ければ高いほど粒度分解を得意とし、成果を着実に積み上げることができます。
CCCとの取り組みが開始された時、目標とアクションをすぐにOKRに落とし込み、チーム全員で把握できる様に「何をいつまでに実行していくのか」を全体で可視化させました。
UIデザイナーとビジュアルデザイナー両方を1枚のOKRシートで管理し、常にメンバー同士で現在の状況を可視化しています。月の振り返りの際に目標の進捗を確認していくことで完了していない目標は残り続け、それがメンバーの焦りとなります。
目標の進捗は、さらなる意欲の向上につなげることができるため目標の実行精度を高めることで、サービスの改善プロジェクトを大きく進捗させることができました。
※OKR(Objectives and Key Results)とは目標の設定・管理方法のひとつで、目標と主要な結果を指す。
───チームをまとめていく上での悩みや難しさはありましたか?
チームをまとめていく上での難しさは、デザイン作業者として自分が率先して動いていかないとメンバーも動いてくれないことです。
OKRでは「誰よりも目標をしっかりと立てる、誰よりも目標を進めている状態にする。」そうすることでようやく目標の進め方、プロジェクトの品質を上げるための熱量がメンバーに伝わっていく形になります。
逆に、スイッチさえいれてしまえば、後半はすごく楽になることもあります。メンバーにスイッチが入ると、結果的に自分にもさらなるスイッチがはいってきます。その繰り返しによって、結果がチームとしてまとまっている状態になってきます。
───長谷川さんが思う「理想のチーム」とはどんなものでしょうか?
僕が動くからメンバーも動く、メンバーも動くから僕も動きやすくなる。これを自然体で繰り返していけるチームが理想だと思います。
メンバーが動くためには、それぞれが好きなこと・やりたいことに取り組めていることも重要な要素だと思います。好きなこと・やりたいことは、それだけで動くきっかけになります。夢中になればなるほど、結果的に質の高いアウトプットもあがってきます。まさに、理想のチームの状態だと思います。
───長谷川さんのチーム・個人としての目標をそれぞれ教えてください。
チームとしての目標は、引き続きデザイナーチームを強化していくことです。
業界全体で見ても、CyberAgent、CyberZ、OPENREC.tvのデザイナーの価値をもっともっと引き上げていかなければなりません。まずは自分が見える範囲で土台を固められたので、次の手としては、トップラインをどんどん伸ばしていきたいと思っています。
個人の目標としては、会社のためにも『レガシー』をどんどん残していけたらと考えています。ガイドラインの作成やワークフロー整備など、自分がいなくなったとしても、成果物が明確に残っていき、それによって組織がしっかりと回っていく。
そんな意味のある大きな仕事をしっかりとやっていくことが次の使命だと考えています。
───最後にメッセージをお願いいたします。
僕がデザインする上で大切にしている価値観は、いかに怒られないか、どうやったら褒めてもらえるかの2つです。
当たり前の話ですが、自分でもやばいなと思っている仕事はやっぱり怒られるし、ものすごい良いものを作れたら褒めてもらいやすいです。大事なのはこの感覚を研ぎ澄ますことです。いわゆる、期待値コントロールです。
上司やメンバーの期待値がわかってくると何をどれぐらいすべきなのか、その感覚もわかるようになってきます。そして最後には、ユーザー感覚・ユーザーの期待値すらも超えることが意識できるようになったります。
いい意味で手を抜いたり、周りがびっくりするぐらい力をいれたりと、仕事で緩急をつけられるようにもなってきます。
まずは怒られポイント、褒められポイントを意識してデザインや仕事をしてみるのがおすすめです。期待値がコントロールできるようになると、仕事の質も劇的に変わると思います。